誰もが「主役」になれる一枚、もとい一本。
「映画の結末ってどこか救われる感じのものが多いけど、本物の人生はもっとあいまいで、煮え切らなくて結論が出ないまま終わってゆく。NGカットや使われなかったカットをたくさん抱えながら、それをどうすることもできずに、人はそれぞれの人生の主役を演じ続けてゆく」ーーこれは、松任谷由実コンサートツアー2011『Road Show』での、ユーミンのMCのひとこと。
脚光を浴びるスターよりむしろ、一番ドラマティックなのは、実は市井の人々ひとりひとりの人生なのだ、とユーミンは語りかけた。
奇しくも、東日本大震災のあった今年リリースされた、ユーミン36枚目のオリジナル・アルバムのタイトルは『Road Show』。
それぞれの人生にリンクするような11本の「映画」は、雨のシーンから幕を開ける。強い雨の中、車を走らせる恋人の姿を描いた『ひとつの恋が終るとき』から始まり、ピアノの基調でJAZZYなコード進行がたまらなくカッコいい『I Love You』では、「あなただけ I need you...」とただわけもなく、ストレートに愛を伝える人がいる。
かたや、雪が降り出しそうな夕刻の空を、コッパー(銅)やアンバー(琥珀)、黄色味がかった色をしている、とユーミン独特の色彩感覚で歌詞に “詠む”『コインの裏側』もあり、歌詞と音とで聴き手が「想像力を試される」珠玉の仕上がりとなっている。
約50分の短編オムニバス作品『Road Show』のエンディングを飾るのは、『ダンスのように抱き寄せたい』。映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』のテーマとなった曲だが、♪瞳を閉じて♪聴けば、あの、山河を縫ってゆるやかに走る一畑電車がフラッシュバックしないだろうか。
脳内で記憶と音・歌詞(=映像)がシンクロし、誰もが「主役」になれる一枚もとい一本。