『ルージュの伝言』は「金言」である。

「私は“天才”です」——その天才は言い切った。齢十六にして読んだ『ルージュの伝言』。

一行目のその文字に、私はいたく衝撃を受けた。「天才」と言い切れば天才でまかり通る。

「この世でほんとうに正しいことなんか何もない。はっきりと断定したことが真実になる」は今も座右の銘だ。

　1994年、ある日テレビから耳にした『Ｈｅｌｌｏ，ｍｙ　ｆｒｉｅｎｄ』で、天才が紡ぐ詞の虜になった。

Hello,my friend

　ユーミンこと松任谷由実。多くの「消費」される音楽とは違い、少女の普遍的な心理を歌っていた。

　ファン心理は、その才能のすべてを知ろうとさせる。そして、自らを作品の世界に重ね合わせ、少しでも近づこうと努力する。

　当時、私は横浜の高校に通っていた。勉強ができる方でなかったので、よく授業中、歌詞の写経に興じた。ユーミンの歌詞をノート端に走り書きしては、空想に耽った。

　高校は進学校でなかった。国語や英語の成績は特段良いとは言えず、中の上程度。子供はほぼ「天才」は勉強のできる人を連想する。だから、私は天才と言われたことは皆無だ。

　しかし、ユーミンはまるで違った。「天才なんて別に相対的なものじゃなくて、絶対的なものでしょう。だからいいんじゃないかな。他人がなんて思おうと自分で思っている分には」と諭した。
　続けて、所謂勉強ができるタイプは「秀才」。「天才」はアウトプットの回路を持っていて、新しいものがバンバン生めるものと教えてくれた。

　それから十数年。広告業界などで仕事をしてみて、その意味が分かった。社会では秀才は新たなシステムは創らず、システムに組み込まれるだけ。

　少数の天才が新たな価値観で、新たな組織を創ると。もう一つ言い切れるのは、ユーミンは絶対的な天才ということ。ユーミンの伝言は私の金言だ。

ルージュの伝言 (1983年)